2016年2月14日初出 約970文字
2017年2月 修正
朝補習のある十聖高校特進クラスの朝は早い。
いつもより冷え込んだせいか寝坊してしまい、0限の開始時間ぎりぎりだ。
日の出の時刻は過ぎたはずなのにいっこうに明るくならない空を見上げ、傘を持ってくるべきだったかと考えながら、高井は校門までの道を駆け出した。
エントランスにはもうほとんど人影はなかったが、ひとりだけ、見慣れた人物がいた。
「よう、中島。遅れるぜ」
常日頃まったく愛想のない彼からの返事はない。それに慣れっこになっている高井は気にも留めずに上履きに履き替えた。
流れで一緒に行くのだろうと中島を見れば、彼は革靴を手に持ったまま、靴箱の中から棚の上に、乱暴な手つきで何かを移している。
小ぶりな紙袋や、カラフルなビニール袋。赤やピンクのリボン。
「ちょ、お前それチョコレート?! 朝イチでもうそんな入ってるのかよ!」
「……知らない」
「いや、チョコだろこれ! ほんっとお前無駄にモテるな!!」
中島は無言のままがさがさと5・6個のチョコレートらしき包みを移動させている。かなり不機嫌なようで、床に叩きつけるように上履きを出すと大きな音を立てて革靴を突っ込んだ。と、そのまま階段へと向かって行く。
「置いてくのか?」
「要らない」
「いや、せっかくお前にってくれてるんだろ? 手作りかもしれないし、ちゃんと食べてやれよ」
にべもない返答。責めるような口調になってしまうのは、断じて自分の靴箱に何もなかったからではない…と思いたい。まだ朝だ。
この変わり者の友人は、モテるというのにまったくそれを意に介さず、情が薄いのか不器用なのか、振る女子への配慮もほとんどないのだ。
比較的中島と仲がいいため、高井は少しでも彼に関する情報を得たいという女子らに接触されることがしばしばあった。その後幾人かの勇気ある者がこの男に当たって砕け、泣いているのを知っている身なのだ。元来気の優しい高井にとって、この行為はいただけなかった。
しかし、立ち止まってこちらを見据えてきた中島の目は冷めきっている。
「……手作りなんて、何が入ってるかわかったもんじゃないよ。買った物だって、知らない奴が勝手にあんなとこに置いてったものなんか気持ち悪いだろ」
チョコレートに入っているものなんてアーモンドくらいしか浮かばない高井は、中島の言葉の意味が分からない。一瞬止まってしまった彼を置いて、中島はすたすたと歩き出した――教室とは正反対の方へ。
どうやら中島には、補習を受ける気はさらさらないらしい。
――今年も女子の恨みごとを聞かされるはめになりそうだ……。
人影のない廊下に予鈴が響く。
高井は鞄を抱え直すと、慌てて教室へと向かった。
ありがとう~(*´▽`*)嬉しい❤ >こんな感じっぽい
ほんと中島は無駄にモテるんだと思うの。
多分小学校高学年くらいからモテまくってるので、いいかげんめんどくさい…とか思ってそう。
で、魔術にかぶれてるんで、「チョコになんか入れられてるんじゃないか」って警戒してる…そんな厨二病者だと思うわけですねw
望月遥
ああー、二人のやりとりこんな感じっぽいー!!
「無駄にモテる」に笑ったww