【再録】DDS迷作劇場2 ~魔都の戦士編~

 (作成:2000年頃? 初出:?年久我のサイトAfter school Twilight  約1750字)








「五十億の人間より、ぼくは君一人を選ぶ!」

 

弓子の震える指が、中島の額を、頬を、睫毛を、唇を、狂おしくなぞっている。

地獄のような苦しみの果ての、罪深い愛の言葉。弓子は自分の胸にわきあがる暗い喜びに逆らうことができなかった。閉ざされた双眸から流れる赤い涙は、良心が流させたものか、それとも恋の歓喜か。わからぬままに涙はあふれ続け、紅玉となって虚空を舞った。

言葉にしたことで、中島の中に生まれた思いは、確かな形となった。心はすでに静まり、ただすまなさといとおしさだけが中島の心を満たしている。つむぐ言葉を探しえずに震えるばかりの弓子の唇を、その迷いごと包むように、中島は何度も浅く優しくくちづけた。血に汚れもつれた髪を梳いてやる中島には、魔界からの扉をくぐり地球へと向う悪魔たちのことも、未来も、もはや思考の外にあった。

再び、弓子は、一糸まとわぬ姿で中島の胸にいた。
弓子は傷つき疲れた身体のどこに残っていたのかと思わせるほどの力をこめて、中島の胸にすがりついてくる。驚きはいとおしさに変わり、抱きしめる腕にますます力がこもる。中島には、イザナミの衣も、互いの皮膚すらもうとましかった。

ち、ち、ちょっとくらい、いいよな…蘇我の森でももう見ちゃったし…

中島は衝動に駆られた。

蘇我の森ではセトとの戦いに必死でそれ(…それ?)どころではなかったし、イザナミのヌードは神々しすぎるためか、不思議なことにフルヌードなのに色気は感じなかった。(あたりまえだ。神様なんだから)
しかしここは宇宙空間、まわりには誰もいない。イザナミも衣を失っている今、ここまではやって来られない。そして今、中島朱実一世一代の告白に、彼女は全身で応えてくれている。

朱実、今だ、今しかない!

中島は意を決して、身体を少し離そうと弓子の肩をつかんだ。顔を上げる弓子―。
その時だった。

 

 


「何、磁界が消えた?!」

「間違いありません!再計測でも、同様の結果になっております!」

地球ではフィード教授率いるプロジェクトチームが、突然の磁界の喪失に色めきたっていた。弓子の存在を知り、磁場を必要としなくなったセトが人工衛星を破壊したのだったが、宇宙でのセトと中島の戦いを知らぬフィードには事態がつかめない。

― 何があったのだ、中島…。無事なのか…?

スタッフたちがフィードの指示を息をのんで待っている。一刻も早くセトを地球外の磁場に捕縛しなければ、世界は蘇我の森以上の惨事に見舞われる。各国政府首脳を説得できていない今、悪魔の降臨はそのまま人類の滅亡を意味していた。

― 弓子君には悪いが、私は人類を危機にさらすわけにはいかん!

「…作戦を変更する!プランβ、照準衛星を第3候補にきりかえよ!」

レーダーが捉えた映像を写すスクリーンを厳しいまなざしで見つめ、フィードは作戦の再試行を命じた。
計測を重ね、ソ連の妨害電波をかわし、磁場が別の衛星上に発生したのは、まさに中島が弓子の肩に手をかけたその瞬間だった。

 

 

ごくり、と緊張に喉が鳴る。中島はさまよわせた視線をゆっくりさりげなくおろしてゆく。

「…な…ッ!?」

弓子の身体の輪郭が、泡立つように粒子となって、形を崩しはじめていた。フィードにより設定された新たな磁界が、弓子の身体を引き寄せようとしていたのだ。
本来、弓子はセトの実体化の核として取り込まれていたために、いわば巻きぞえをくって衛星に引き寄せられただけだった。だが、そのことが弓子の身体に変化を生じさせたのか、弓子と同じく神の形質を持つはずの中島の肉体をイザナミの衣が守ったのか、何故か弓子だけが新たな磁界に引き寄せられているのだった。

「ちょ、ちょっと、これじゃ見えないじゃん!!!!!!」

中島の焦がれたやわらかな肌が、みるみるうちに確かさを失い、背後に広がる漆黒の宇宙が透けてくる。盲いた弓子は事態がのみこめず、不安げに首をめぐらしているが、その輪郭ももはや微かだ。引きとめるために懸命に抱きしめようにも、もう手ごたえはなかった。ルビーのような涙の粒だけを中島の周りにのこし、弓子は中島の腕から姿を消したのだった。

「あんまりだよ、
 フィード教授ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

宇宙空間を泳ぎながら、中島は固く心に復讐を誓った。その意志は弓子を苦しめたセトに対するものよりも強かったという―。

 


3巻へ続く・・・。

 

 

 

 

 

コメント

皆楠じゃり

これも求職中に通っていた職業訓練学校の授業中に書いた。
なんか、いろいろすまんかった、中島…。

  • 2013/07/13 03:55:05

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  • 2013/08/03 19:55:12

皆楠じゃり

城戸さん
 コメントありがとうございます!
 大変申し訳ありません、私の操作ミスで、いただいたコメントが消えてしまいました…。(返信メッセージを上書きしてしまったのです…)
 せっかくコメントいただきましたのに、本当に申し訳ありません…。

>閉ざされた双眸から流れる赤い涙
>弓子の視力を奪ったのは小原の吹いた毒液のせいなのか、
 それともセトの仕業なのか? 

記憶しているところで言えば、確か
・小原の死をきっかけに、その子宮を内側から破ってセトが生まれ出てきたときに飛び散った血や羊水を浴びたせいで視力を失う
・テュホンの戦いを有利にするため、セトが体内の弓子の眼を潰し、中島にそのイメージを送りつけてくる
こんな感じでしたよね。

『視力を奪う』で言えば、小原の毒液…でしょうか。でも、それも結局セトが作ったもののような気がしますね。
はっきり書かれているのは片方、ですが、もう一方も流血してましたから、
その後視力が回復しないのは完全にセトのせいなのではないでしょうか。眼球なかったら回復とかって言ってる場合じゃないですよね…。

>できれば肉の塔の戦いや宇宙でのセトとの決戦などについての読者視点から見た補間的な話も読んでみたいと思います。

2巻は情報量が多いのももちろんですが、その状況も特殊で、下手に手を出せない濃さなんですよ…。アクションシーン満載になりそうですし…。む、難しそうだ…。
でもですね、成川さん! 以前から成川さんの出てくる話を書きたいと思ってはいるんです。中島・フィード・成川の3人の絡み!
となると、2巻の話になるはずでして…。
いずれ、と思っておりますので、どうか気長にお待ちいただけますとありがたいです(*^。^*)

大変失礼いたしましたが、今後もお見捨てなきようよろしくお願いいたします…。

  • 2013/08/05 15:31:02

城戸信夫

>大変申し訳ありません、私の操作ミスで、いただいたコメントが消えてしまいました…。(返信メッセージを上書きしてしまったのです…)
 せっかくコメントいただきましたのに、本当に申し訳ありません…。

いえいえ大丈夫です、下書きは保存してありますから。お気になさらずに。

>でもですね、成川さん! 以前から成川さんの出てくる話を書きたいと思ってはいるんです。中島・フィード・成川の3人の絡み!
となると、2巻の話になるはずでして…。
いずれ、と思っておりますので、どうか気長にお待ちいただけますとありがたいです(*^。^*)

期待して待ってます。出来れば、成川さんのルックス・
年齢・服装・趣味などのパーソナルデータを詳しく描写してくれるとうれしいですね。
ところで弓子の札幌時代の家族や級友たちとの触れ合いや団欒(だんらん)の日々はどんな幸せな想い出だったでしょうか? 
彼女の名も知れぬ弟はどんな可愛い子(だって弓子の弟だから)だったのか? 想像が広がりますね。

  • 2013/08/09 20:22:22

城戸信夫

 (前のコメントの補足です)あと、蘇我の森での弓子は成川さん/ツクヨミの死を感知していたのでしょうか? 
感知していたとしたら、自分のためにせっかく転生した命を散らせてしまったことに対し、
さらなる罪の意識と喪失感に苛まれたであろうと思われますが。

  • 2013/08/10 02:24:46

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